手づくりの店HANNAH
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台風の朝

台風の朝

2026/09/14

台風の朝
くもりガラスの窓の向こう側には、雨と曇り空が広がっている。
12:00と17:00に予約が入っているけれど、無事にお店まで来れるだろうか・・
交通状況を調べて時計を見ると、時間は6:40
開店までに
これからシナモンロールを焼いて、もう一つ仕込みが出来るかどうか微妙な時間だ。
こういう時は
慌てて仕事を詰め込むよりも、自分を整える時間に充てた方が良いのだと、最近やっと思えるようになった。
例えば、
温かいお茶を淹れて、読みたい本の数ページでも読んだり。
座って一息つくだけでもいい。
微妙な時間の余白の中で、ふと一冊の本が目に入る。
ロシア人テノール歌手の出している料理本だ。

この本の中には、
彼の小さい頃、旧ソ連時代の思い出や、彼の家族の食卓の風景が収められている。
その中にクラビエ"Kypa6be"という、クリミア・タタール料理の伝統菓子が紹介されていて、このエキゾチックな起源を持つお菓子に、著者は幼少期からロマチックなイメージを抱いていたようだ。
そうだ、このお菓子を作ってみよう!
まるで知らない土地に旅行しに行く時のように、新しいレシピに触れるときはワクワクが止まらない。
粉・バター・砂糖・卵白というシンプルな生地だけど、このシンプルな材料で何百通りものレシピが、この世には存在する。
焼き加減は高温で短時間。
バターと甘い香りが、オーブンから溢れ出す。
クッキーの端がほんのり付き、白っぽく焼き上げるのが正解のようだ。

「焼く」というよりも「火を通す」感覚で、白く焼き上げたクッキーの、バターの風味の豊かさ。
それを焼きたてのアツアツで食べると、なんて幸せな気分なんだろう。
高温✕短時間で焼き上げるところが、オーブンも無い時代に
石釜や新で焼いていたお菓子なのではないかと連想させる。
美味しいものを作ると、ついつい他んな人の顔が浮かぶ。
あの人にこれ、食べてほしいなぁ・・いま一緒にいたら良かったのに。
冷めるとこのクッキーは印象がガラリと変わる。
なんて美味しい焼きたてだったんだろう・・贅沢な家庭料理や家庭菓子のような、温かい雰囲気がある。

気がつけば、そろそろレストランを開けに行く時間だ。
焼けたクラビエを包んで、Snsに投稿した。
「クリミア・タタール料理の伝統菓子クラビエ"Kypaibe
気まぐれに焼いてみました。
本日ご来店で¥2000以上のお会計の方に一枚差し上げます」
本当は焼きたてを共有したいけど、たまにはこんなふうに、
楽しみのあるプレゼントがある日もいいのかもしれない。


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